物理学・宇宙物理学専攻(宇宙物理学分野)・准教授 栗田 光樹夫
長年の夢、希望、そして血と汗が染み込んだ口径3.8mのせいめい望遠鏡がいよいよ産声を上げた。せいめい望遠鏡は技術的には国内初、世界で2例目の分割方式の主鏡を有する東アジア地域で最大の望遠鏡だ(図1)。なお、「せいめい」という名は京都と望遠鏡が設置された岡山県浅口市にゆかりのある日本初の天文学者?安倍晴明にちなんでつけられた。
分割鏡を実現するには非軸対称な鏡面の製作技術、屋外環境下での数十ナノメートルレベルの鏡の位置制御技術などの困難な課題を克服する必要があった。さらに望遠鏡構造から無駄をそぎ落とし、従来の数分の1の重量にシェイプアップさせ、機動性の高い望遠鏡を目指した。これらの技術を獲得し、単一鏡の限界である直径8mを超える巨大な望遠鏡への跳躍を目指した。
3.8mの口径、東アジアという立地、そして軽量さと大学望遠鏡ならではの性能と運用面の身軽さという特徴を生かし、せいめい望遠鏡は主に3つのサイエンスミッションをもつ。まず、高い機動性で突如現れ消えゆく超新星やガンマ線バーストなどの突発天体をいち早く捉える、2つ目は潤沢な観測時間でブラックホールや星のフレア現象などをモニターする、3つ目は系外惑星の直接撮像である。
国内から観測拠点が海外に移る近年、岡山に建設されたせいめい望遠鏡は異色である。近くにあるということは海外に比べアクセスが良く、新規性の高い観測装置を搭載しやすい。ホームテレスコープとしてチャレンジングな研究を行い、学生の観測・教育機会を増やすことを狙った。
冒頭で述べたようにせいめい望遠鏡の技術は未来を見据えている。すでにインドネシアは同型の姉妹望遠鏡を建設中である。また鏡の製作に関連した精密加工、計測技術を中心とし、多くの企業や研究機関がせいめい望遠鏡に注目している。これからもせいめい望遠鏡が大学の特色を生かした挑戦的な観測を実行し、世界に広がっていくのが楽しみである。